学生の頃から、瀬尾まいこさんの小説が好きです。新刊が出るたびに図書館に通いつめ、読んでいました。
どの本も文章は優しいけれど、とても現実的。うまくいくことばかりではなくて時に救われないけれど、それでも人生は続いていくということを淡々と描いています。
小説ですが、本当にこの世界に生きている人間を書いてあるような気がしてなりません。
そんな、瀬尾まいこさんの小説『幸福な食卓』をご紹介します。この小説は2007年に映画化もされています。
作品情報
著者 瀬尾まいこ
発売日 2004年11月(文庫:2007年6月)
出版社 講談社
あらすじ・作品説明
佐和子の家族はちょっとヘン。父を辞めると宣言した父、家出中なのに料理を届けに来る母、元天才児の兄。そして佐和子には、心の中で次第にその存在が大きくなるボーイフレンド大浦君がいて……。それぞれ切なさを抱えながら、つながり合い再生していく家族の姿を温かく描く。(文庫版裏表紙より)
感想
タイトルとは裏腹に、生死を扱う小説です。一見すると重いテーマなのに、キャラクターのコミカルな部分がその重さを何でもないかのように見せてくれます。
そもそも生死、特に死を扱う話は重いですよね。生きていれば必ずあることなのに、日常には非現実的な要素である人が多いでしょう。
だからこそ人は死に直面したとき、うろたえ、落ち着きが無くなり、通常ではいられなくなる。それは何度経験してもそうなるのだと思います。
死を間近に感じてもそれでも自分の人生は続いていて、日々を過ごしていかなければなりません。それまでとは確実に違うのに、当たり前のように時間は過ぎていく。
そのことに救われる時もあれば、時間が経つ毎に苦しくなることもあります。
その時に、変わらずそばにあるものがあるんじゃないかなあと思うのです。それは人かもしれないし、物かもしれない。何かしらの支えになるものがあって、それがあるからこそ自分を保てている。
この本の中では、それが家族でした。
気づかないうちに家族に守られ、支えているつもりが支えられていた。そうやって今後も主人公・佐和子は生きていくのだろうと、読み終わった後にそれぞれのその後の人生を想像しました。
私も、知らない間に家族に守られている。
守られて生きてきたのだということを忘れないようにしたいです。
フレーズ
セリフは佐和子の兄・直ですが、この言葉は佐和子の父が遺書に残したものでした。この言葉に添って、直は生きています。
真剣であるって美徳的ですよね。物事に取り組む際に正面から立ち向かう強さや、やり遂げなければならないという一種の強迫観念を感じます。けれどそれには限度があります。
ずっとそうやって向き合ってきた佐和子の父だからこそ言えた言葉であり、その言葉が響いたのは兄の直でした。主人公の佐和子ではなく。
真剣であるということに向き合い過ぎて、戻れなくなって壊れるより良いと思います。
いかがでしたでしょうか。
最近は、少し前の小説を読み返しています。その中で、本棚にずっと置いてあるこの小説。出版が今から19年も前で、そんなに経ったのかと驚きました。
何時読んでも、良い本はやはり良いなあと改めて感じました。
映画も久しぶりに観ようかな。