今、自分の身の回りにあるモノを、どれだけ認識し物語を語ることができますか。
日常に溶け込み、そこに在るのが当たり前のように感じるモノも実はそうではないということ。そんな日常に、ふと気づくことがあります。
立ち止まって周りを見渡してみる。そんな時間を大切にしてみてもいいのではないでしょうか。
今回は、松浦弥太郎さんの『日々の100』をご紹介します。
作品情報
著者 松浦弥太郎
発売日 2009年3月(文庫:2013年7月)
出版社 青山出版社(文庫:集英社)
あらすじ・作品説明
アメリカ郊外の村で見つけた、アンティークのキルト。古書店・カウブックスの開業時に揃えた、イームズのスツール。何気ない日常のアイテムから、大事な宝物まで、『暮しの手帖』編集長である著者が愛用する、100の品々。愛すべきモノたちと真摯に向き合い、その出合いや記憶を、自ら撮影した写真とともに心豊かに綴る随筆集です。100編の随筆に、新しく文庫版書き下ろし3編が加わりました。(文庫版裏表紙より)
感想
本を開くと右ページがモノの写真、左ページにそのモノの文章があります。
写真はカラーの写真から白黒の写真もあり、実際にどんなモノなのか興味がわきます。物撮りって比較対象がないとモノの大きさも分からないので、どれくらいのサイズなのか、質感はどんな感じなのか、想像しながら文章を読み進めました。
文章は、そのモノについての物語や著者ご自身の経験・考えがありつつも、一つひとつに対する愛情が溢れていると感じます。激しい愛ではなくて、日常にある穏やかな温かい愛。だからこそ沁み込んでいくような深い愛おしさを感じました。
今、私の周りにあるモノで、これほどまでに愛情をもって語ることのできるモノがあるだろうか。そしてそれを100個も。
日常的に気にかけたり手入れをしていなければ、気づかないのかもしれませんね。
手に入れたときの弾けるような喜びが無くなると、使い古していくうちに他の新しいモノに目移りしたりすることもあります。長い間私のそばにあり身に馴染んでいるモノもあるけれど、存在を忘れがちになっているモノも。
けれど、確かにそこに在るんですよね。私の意志で選んだモノもそうでないモノもあるけれど、今私のそばにあるということがすべてなのではないかなあと思います。
身の周りを見渡して、私の日常を支えてくれているモノたちに改めて感謝したくなる、そんな本です。
気になるモノ
- 005 村上開進堂のクッキー(p20)
箱に所狭しと詰めこまれている美味しそうなクッキー。一度だけ、およばれしたときにいただいたことがあります。その時は良く知らず、あとからそんなに有名なクッキーなのかと驚きました。写真を見てふと思い出し、また食べたくなりました。
- 047 found object 落とし物(p104)
本に載っているのは、著者が海外で拾った英語で書かれているショッピングリスト。実は私も持っています。私の持っているリストには、几帳面な文字で野菜やお肉など食材がピックアップしてあります。おそらく自炊をする方だったのでしょう。
そういう何気ない日常の手書きメモが、私以外の生きている人間を表しているようで嬉しくなったのを思い出しました。まさか同じようなことをする方がいるなんて、とても驚きました。
いかがでしたでしょうか。
同じモノを持っていなくても、何だか今の自分の周りに在るモノたちが愛おしくなりますよ。気になられた方、ぜひ一度読んでみてくださいね。